『認知症』という言葉が広く認知されるようになったのは比較的最近のことです。
それ以前は『痴呆』『呆け』と呼ばれ、言葉の印象と偏見から軽蔑的な表現で呼ばれていました。
私も祖父が認知症を発症し呆けと言い放った瞬間、親からしこたま怒られた事を今も覚えています。
平成16年12月、厚生労働省の用語検討会において行政用語を『認知症』と呼称変更がおこなわれました。
呼び方が変わることで患者さんが自身の状態に向き合えるようになり
早期発見や早期治療もしやすくなりました。
『認知症』自体は古くから存在し、古代エジプト時代には既に『認知症』の記録が残されていました。
日本において認知症患者の数は2012年462万人、2025年700万人、2040年800~950万人に達すると
予測され高齢化社会への移行とともに急増傾向にあります。
(令和5年版厚生労働白書)
『認知症』の種類は国内では、
【アルツハイマー型認知症】(68%)と【血管性認知症】(20%)に大別されます。
他には【レビー小体型認知症】(4.5%)【前頭側頭型認知症】(1%)その他(6.5%)などがあります。
『認知症』の中でもっとも割合が多く、全体の70%近くを占めます。
脳の神経細胞にアミロイドβ(ペーター)というたんぱく質がたまり、
それが神経細胞を破壊し脳が委縮することで発症します。
アミロイドβが脳に溜まると[老人斑]と呼ばれるシミが脳にできる事が分かっています。
アミロイドβが蓄積される原因については、加齢や遺伝が影響するとされつつも
明確なことは分かっていません。
しかし近年、糖尿病や高血圧の人はアルツハイマー型認知症になりやすいことが
明らかとなり、予防として生活習慣の改善が重要であることが分かってきました。
アルツハイマー型認知症の初期は、物忘れのような症状に始まり、
食事をとったこと自体を覚えていないなど行動そのものを覚えていないようになります。
近い時期の記憶から徐々に消滅していき、進行すると徘徊、失禁、性格の変化等が現われ、
日常生活を送るには全般的なサポートが必要となります。
また、肺機能が良い人は悪い人に比べてアルツハイマー病になりにくい事が分かっています。
肺の働きが悪いと脳への酸素供給が悪くなり認知症のリスクを高めるのではないかと
考えられています。
認知症全体の約20%を占めます。
脳梗塞や脳出血等の脳血管障害によって脳の血液の流れが阻害され、
脳の一部が壊死することで発症します。
脳梗塞や脳出血は、高血圧、脂質異常症、糖尿病等の生活習慣病が原因で引き起こされる病気です。
その為、血管性認知症を予防するためには生活習慣を改善し、血管障害を予防することが大切です。
血管性認知症の症状は、障害を起こした脳の部位によって異なります。
具体的には歩行障害、手足のしびれ、麻痺、排尿障害、言葉が出ずらい、意欲低下、不眠、
感情のコントロールがきかないなどの症状があり、血管障害の発作が起こる度に
症状が段階的に重くなっていく傾向にあります。
その為、リハビリテーションや生活習慣の改善によって発作の再発を防ぐことが重要で、
症状の進行を遅らせることにつながります。
レビー小体という神経細胞にできる特殊なたんぱく質が脳にたまり神経細胞を破壊することで発症します。
特殊なたんぱく質が脳にたまる原因は、いまだ解明されていません。
レビー小体型認知症では手足の震え、身体のこわばり、歩行障害等があり、転倒しやすくなるため
注意が必要です。また幻視、うつ症状、睡眠時の異常行動なども見られます。
記憶力や判断力といった認知機能の障害は変動しやすく、頭が
ボーっとしている時を繰り返しながら進行します。
気分や態度、行動がこころ変わるのもレビー小体型認知症の特徴です。
レビー小体認知症は発見者の病理学者レビー医師に因んで命名されました。
脳の前頭葉や側頭葉が委縮して起こる認知症です。
50~60歳代に発症しやすく、多くは10年以上かけてゆっくりと症状が進行していきます。
現在のところ分かっている原因としては、脳にピック球という異常構造物がたまって発症するケースと、
TDP-43というたんぱく質がたまって発症するケースがあります。
しかし、なぜ溜まるのかは分かっていません。
特徴として、性格が極端に変わる、悪ふざけや万引きなどの反社会的な行動が増える、
柔軟な思考ができない、身だしなみに気を使わなくなる、衛生面の管理ができない
などの症状が現われます。また周りの状況に関係なく、
同じパターンの言動や行動を繰り返す、時間に固執して
予定どおりに行動しないと気がすまない、という特徴もあります。
症状が進行するにつれ次第に物の名前が分からなくなり、言葉が出なくなっていきます。
記憶力は、20代をピークに加齢と共に減退していきます。
60歳頃になると記憶力の低下に加えて判断力や適応力の衰えもみられるようになり、
物忘れが次第に多くなってきます。
[もしかして認知症かも]と不安に感じるかもしれませんが、
加齢による物忘れは自然な現象で認知症とは根本的に性質に違いがあります。
加齢による物忘れと認知症による物忘れを比較すると、以下のような違いがあります。
上記の表から物忘れと認知症は、多くの点で異なることが分かります。
類人猿の仲間、チンパンジーはアルツハイマー病にかからないと言われています。
これはチンパンジーの遺伝子にはアルツハイマー症と戦う酵素を作り出す働きがあるためだそうです。
一方、ヒトの遺伝子は進化の過程でこの働きを失ってしまったそうです。
それならば『認知症』を引き寄せないために
生活習慣を見直し予防対策を積極的に行っていこうではありませんか。
対策としては
①過度なアルコールやたばこ摂取をさける。
②食事は大豆、魚、ナッツ、果物等バランスのよい食事を心がける。
③適度な運動をする。週2~3回の頻度で1日30分歩くなど無理なく続けられる範囲で行う。
④睡眠不足は『認知症』のリスクを高めるので十分な睡眠を取るようにする。
⑤歯の手入れをまめにおこなう。(歯が少なくなるほど認知症傾向)
⑥ストレスは『認知症』のリスクを高める為ストレスを減らす様に心がける。
⑦読書、クロスワードパズル、数独など脳を刺激する活動を行う。
ただし過度な脳トレはストレスを引き起こす可能性がある為無理をしない。
生活習慣を見直しして健康寿命を伸ばしていきましょう。